制度の概要・メリット
この制度は、遺言者が作成した自筆証書遺言を、遺言書保管所(法務局)に保管してもらえる制度です。
この制度を利用する主なメリットは、次のとおりです。
1 法務局に保管してもらえる
○遺言書の形式に問題がないか、法務局にチェックしてもらえる
○遺言書の原本及び画像データを、法務局に長期間保管してもらえる
2 家庭裁判所の検認が不要
○保管してもらった遺言書は、相続開始後、家庭裁判所の検認をする必要がありません。
3 相続開始後、相続人等は、遺言書の内容を容易に確認可能
○画像データでも保管しているため、全国どこの法務局からでも、内容を確認できます。
4 通知が届く
○相続開始後、一定の条件を満たすと、相続人等の関係者に対して通知が届きます。
○この通知により、関係者は、遺言書が保管されていることを知ることができます。
以下では、詳しい手続などについて解説しています。
遺言者の手続
遺言書の保管の申請
遺言者は、遺言書保管所(法務局)に対して、自身の自筆証書遺言に係る遺言書の保管の申請を行い、遺言書を預けることができます。
一度保管した遺言書は、保管の申請の撤回をしない限り、返却されません。
遺言書の保管の申請ができるのは,遺言者本人のみです。
※代理人による申請や郵送による申請はできません。
遺言書の作成
まずは、自筆証書遺言を作成しましょう。
全文自書、署名、押印などの要件を満たすよう、しっかりと意識しましょう。
なお、遺言書保管所は、内容に関する相談には応じてくれません。
内容に関するアドバイスがほしい!という場合には、司法書士をはじめとした専門家に依頼しましょう。
保管申請の準備
次に、保管申請書を作成しましょう。
申請書の様式は、法務省の専用HPからダウンロードすることができます。
このとき、受遺者等及び遺言執行者等の氏名・住所については、正確に記載するよう心がけましょう。
もちろん、他の部分も正確な記載が必要ですが、ここは特に重要です。
後述しますが、保管された遺言書は、遺言者の死後、上記のような関係者の住所宛てに通知されることになります。
この通知が確実に届かないと、せっかく作成・保管した遺言書が、効力を発揮できないことにもなりかねません。
申請書を作成したら、次のいずれかの遺言書保管所の中から、保管所を選びましょう。
○遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
○遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
○遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
保管所を選んだら、遺言書保管請求の予約を取ります。
手続には予約が必須なので、いきなり法務局へ行かないように注意しましょう。
予約方法についても、いくつか注意点がありますので、こちらも法務省の専用HPを確認するようにしましょう。
保管申請
予約した日時に、予約した保管所へ行きましょう。
持ち物は次のとおりです。
○遺言書
※ホチキス止め、封筒などは不要。
○保管申請書
○住民票の写し等
※本籍及び筆頭者の記載あり。
※マイナンバーや住民票コードの記載なし
○顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
○手数料
※遺言書1通につき,3,900円
※収入印紙で納付
※担当者から指示があるまでは貼らないでおきましょう。
保管証の交付
問題なく手続が終了すると、「保管証」を交付してもらえます。
保管証に関する注意事項を、以下にまとめておきます。
○保管証は、再発行ができないため、紛失しないよう十分にご注意ください。
○保管証のコピーをとっておき、ご家族などに渡しておくことをお勧めします。
○保管証には、「保管番号」が記載されています。保管番号は、保管した遺言書に関する各種の手続を行う際に、簡単に遺言書を特定することができます。
遺言書の閲覧請求
遺言保管制度を利用したあと、預けている遺言書の内容を確認したくなることがあるかもしれません。そのような場合には、遺言保管所に対して、保管を依頼した遺言書の閲覧を請求することができます。
ただし、遺言者の生前に遺言書の閲覧の請求ができるのは、その遺言書を作成した遺言者本人のみです。遺言者本人以外の方は、閲覧することができません。
遺言書の保管の申請の撤回
預けている遺言書の保管をとりやめたい場合には、遺言書の保管の申請の撤回を行うことで、預けた遺言書を返還してもらうことができます。
これを、遺言書の保管の申請の撤回といいます。
ただし、この撤回ができるのは、当然ながら、その遺言書を作成した遺言者本人のみです。
また、保管の申請の撤回は、遺言の効力とは関係がありません。
手元に戻ってきた遺言書は、そのまま遺言書として有効ということです。
その遺言書の内容を撤回したり、変更したりしたい場合には、別途、手続を踏みましょう。
変更の届出
ここでいう「変更の届出」とは、遺言の内容を変えようというものではありません。
次の事項について変更が生じた場合には、速やかに遺言書保管所に届け出なけれならない、ということです。
○遺言者自身の氏名、出生の年月日、住所、本籍(又は国籍)及び筆頭者 等
○遺言書に記載した受遺者等・遺言執行者等の氏名又は名称及び住所 等
○指定者通知を希望した場合、その通知対象者の氏名又は名称及び住所 等
2つ目と3つ目については、後述する通知の宛先にも関係してきますので、確実に変更の届出を行うようにしましょう。
通知が正確に行われなければ、せっかく作成・保管した遺言書が、効力を発揮できないことにもなりかねません。
相続人等の手続
遺言書保管事実証明書
この証明書を請求することにより、請求者は、以下の事項を確認することができます。
①請求書が請求書に記載した特定の遺言者の相続人である場合
特定の遺言者の遺言書が、遺言書保管所に保管されているかどうか
②請求者が請求書に記載した特定の遺言者の相続人でない場合
特定の遺言者の、請求者を受遺者等・遺言執行者等とする遺言書が、遺言書保管所に保管されているかどうか
請求することができる方は、次のとおりです。
①相続人、受遺者等・遺言執行者等の方
②上記の方の親権者や後見人等の法定代理人
交付請求の準備
まずは、交付請求書に必要事項を記入しましょう。
交付請求書の様式は、法務省の専用HPからダウンロードできます。
なお、交付請求は、全国どこの遺言書保管所でも手続可能です。
また、郵送での請求も可能です。
保管所を選んだら、遺言書保管請求の予約を取ります。
保管所への交付請求
予約した日時に、予約した保管所へ行きましょう。
持ち物は次のとおりです。
○交付請求書
○遺言者が死亡したことを確認できる書類
※ 戸籍(除籍)謄本等
○遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本
○請求者の住民票の写し
※ コピーの場合は、「原本に相違ない」旨の記載と、請求者本人の記名が必要です。
○顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
○手数料
※証明書1通につき、800円
なお、請求者が法人である場合や、相続人の法定代理人である場合には、必要になる資料が少し違いますので、法務省のHPなどで確認するようにしましょう。
また、郵送で請求する場合には、上記の身分証明書の同封は不要です。
その代わり、
○住所を記載した返信用封筒
○返信用切手
を同封し、保管所へと郵送しましょう。
証明書の交付
窓口で受け取る場合には、身分証明書により請求者の本人確認が行われたあと、証明書を発行してもらえます。
郵送の場合には、請求者の住民票上の住所宛てに、証明書が送付されます。
遺言書情報証明書
この証明書は、遺言書の内容を確認するためのものです。
遺言書の画像情報が印刷されているため、遺言書原本の代わりとして、各種手続に使用することができます。
家庭裁判所における検認の手続は不要です。
なお、遺言書原本は、相続人であっても返還してもらうことはできません。
※遺言者自身からの保管の撤回の場合を除く
この証明書の交付を請求できるのは、以下に該当する方です。
①相続人、受遺者等・遺言執行者等の方
②上記の方の親権者や後見人等の法定代理人
交付請求の準備
まずは、交付請求書に必要事項を記入しましょう。
交付請求書の様式は、法務省の専用HPからダウンロードできます。
なお、交付請求は、全国どこの遺言書保管所でも手続可能です。
また、郵送での請求も可能です。
保管所を選んだら、遺言書保管請求の予約を取ります。
保管所への交付請求
予約した日時に、予約した保管所へ行きましょう。
持ち物は次のとおりです。
○次のうち、いずれかの書類
※関係遺言書保管通知の送付を受けた方が請求する場合は、いずれも不要
①法定相続情報一覧図の写し(住所記載あり)
②法定相続情報一覧図の写し(住所記載なし)+相続人全員の住民票の写し
③遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本+相続人全員の戸籍謄本、住民票の写し
○請求者が遺言者の相続人に該当することを証明するもの(戸籍謄本等)
※請求者が数次相続人(相続人の相続人)の場合などに必要
○請求者の住民票の写し
※請求者が相続人以外(受遺者等・遺言執行者等)の場合に必要
※ コピーの場合は「原本に相違ない」旨の記載と、請求者本人の記名が必要
○顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
○手数料
※証明書1通につき、1,400円
また、郵送で請求する場合には、上記の身分証明書の同封は不要です。
その代わり、
○住所を記載した返信用封筒
○返信用切手
を同封し、保管所へと郵送しましょう。
証明書の交付
窓口で受け取る場合には、身分証明書により請求者の本人確認が行われたあと、証明書を発行してもらえます。
郵送の場合には、請求者の住民票上の住所宛てに、証明書が送付されます。
遺言書の閲覧請求
相続人等の方は、遺言書の内容を確認するため、遺言書保管所に対して、遺言書の閲覧の請求をすることができます。
この閲覧請求ができるのは、次に該当する方です。
①相続人、受遺者等・遺言執行者等の方
②上記の方の親権者や成年後見人等の法定代理人
閲覧方法の決定
遺言書を閲覧する方法は、次の2つです。
○原本閲覧
→遺言書そのもの(原本)を見る方法
○モニター閲覧
→モニターにより遺言書の画像等を見る方法
このうち、原本の閲覧は、原本を保管している遺言書保管所でしかできません。
一方、モニターによる閲覧は、全国どこの遺言書保管所でも手続可能です。
また、モニター閲覧と原本閲覧は、手数料の額にも違いがあります。
閲覧請求の準備
まずは、交付請求書に必要事項を記入しましょう。
交付請求書の様式は、法務省の専用HPからダウンロードできます。
閲覧の請求ができる遺言書保管所は、次のとおりです。
○原本閲覧
→遺言書の遺言書の原本が保管されている遺言書保管所のみ
○モニター閲覧
→全国すべての遺言書保管所
閲覧請求
予約した日時に、予約した保管所へ行きましょう。
持ち物は次のとおりです。
○閲覧請求書
○次のうち、いずれかの書類
※関係遺言書保管通知の送付を受けた方が請求する場合は、いずれも不要
①法定相続情報一覧図の写し(住所記載あり)
②法定相続情報一覧図の写し(住所記載なし)+相続人全員の住民票の写し
③遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本+相続人全員の戸籍謄本、住民票の写し
○請求者が遺言者の相続人に該当することを証明するもの(戸籍謄本等)
※請求者が数次相続人(相続人の相続人)の場合などに必要
○請求者の住民票の写し
※請求者が相続人以外(受遺者等・遺言執行者等)の場合に必要
※ コピーの場合は「原本に相違ない」旨の記載と、請求者本人の記名が必要
○顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
○手数料
原本閲覧:1回につき、1,700円
モニター閲覧:1回につき、1,400円
通知制度について
遺言者が亡くなったあと、遺言書の内容を相続人などの関係者に知ってもらわなければ、遺言書の保管を請求した甲斐がないですよね。
そのため、一定の条件を満たした場合には、遺言書保管所から、相続人などの関係者に対して、遺言書を保管していることを通知してもらえます。
この通知には、「関係遺言書保管通知」と「遺言者が指定した方への通知」の2種類があります。
関係遺言書保管通知
概要
遺言者の死亡後、相続人などの関係者のうち誰か一人が、次のいずれかを行った場合には、その他全ての関係者に対して、遺言書が遺言書保管所に保管されていることが通知されます。
○遺言書の閲覧をした場合
○遺言書情報証明書の交付を受けたとき
この通知により、全ての関係相続人等に遺言書が保管されていることが伝わることとなります。
手続
通知を実施するための手続は、特段ありません。
この通知は、関係者のうちのいずれかの方が、特定の遺言書の閲覧等をした場合に、その添付書類から、遺言書保管官が、特定の遺言者が死亡したことを確認することで、その他の関係者に通知することが可能になるからです。
逆に言うと、遺言者死亡後であっても、関係者のうちのいずれかの方が遺言書の閲覧等をしなければ、通知はされません。
指定者通知
概要
遺言書保管官が、以下のような場合に、あらかじめ遺言者が指定した方1名に対して、遺言書が保管されている旨を通知するものです。
○戸籍担当部局と連携して遺言者の死亡の事実を確認した場合
○遺言書保管事実証明書を交付した場合
この通知は、遺言者が希望する場合に限り実施されます。
遺言書が保管されている事実を最優先で伝えたい、と考える方を、通知対象者として指定しましょう。
遺言書を遺言書保管所に保管していることについて、遺言者が誰にも伝えないまま亡くなった場合でも、この通知により、通知対象に遺言書の存在を知らせることができます。
手続
遺言書の保管の申請時に、指定者通知の対象者1名を指定します。
対象者は、以下の中から選択します。
○遺言者の推定相続人
○遺言書に記載した受遺者等
○遺言執行者等
通知の内容
主な記載内容は、次の4点で、上記2種類の通知に共通しています。
なお、2種類の通知のどちらかであるかは、通知の表題により判断できます。
○遺言者の氏名
○遺言者の出生の年月日
○遺言書が保管されている遺言書保管所の名称
○保管番号
その他の注意点
通知を受けた方の注意点
通知は、遺言書が遺言書保管所に保管されていることをお知らせするためのものです。
つまり、これだけでは、遺言書の内容までは分かりません。
このため、通知を受領したら、遺言書保管所において、閲覧や遺言書情報証明書の交付の請求により遺言書の内容を確認するようにしましょう。
通知対象者の注意点
指定者通知は、遺言者の推定相続人を、通知対象者として指定することができます。
そのため、その後の状況変化により、指定者通知を受け取った方が、遺言者の相続人でない場合があり得ます。
たとえば、遺言書の保管申請時に配偶者を指定していたところ、その後、離婚した場合などが該当します。
つまり、通知対象者であっても、通知された時点では既に遺言者の相続人には該当しないため、遺言書の閲覧等ができない場合があり得ます。