相続土地国庫帰属制度

制度の概要

一定の要件に該当する人は、法務大臣に対して、相続等によって取得した土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができます。

次に、法務大臣は、国庫への帰属について承認の審査を行います。
なお、法務大臣が承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員による調査が行われます。

法務大臣が承認すると、承認を受けた人が一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します

なお、承認申請された土地が、「通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地」に該当すると判断された場合には、国庫への帰属は認められません。

以下、詳しく解説していきます。

申請できる人

本制度を利用できる人は、次の要件に該当する人に限られます。

それは、相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人です。

つまり、たとえば売買や贈与など、相続等以外の原因により土地を取得した人は、基本的に本制度を利用することはできません。
もちろん、相続が発生するはずのない法人も、本制度の対象外といえます。

また、相続等により土地の共有持分を取得した共有者については、本制度を利用することができます。
具体的には、共有者の全員が共同して申請を行う方法により利用します。

これは、たとえば売買により共有持分を取得した共有者が別にいる場合でも、同様です。
つまり、土地の共有持分を相続等以外の原因により取得した共有者がいる場合であっても、相続等により共有持分を取得した共有者がいる場合であれば、本制度を利用することができるというわけです。

なお、本制度開始前(令和5年4月27日以前)に相続した土地も、本制度の対象となります。

申請先・相談先

申請先】
法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)
※帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の該当部署
※法務局・地方法務局の支局・出張所では、承認申請の受付はできません

【相談先】
全国の法務局・地方法務局

【解説】
上記のとおり、相談だけなら全国どこの法務局にも行うことができます。
たとえば、東京都にお住まいの方が、福岡県にある土地について制度を利用したい場合には、福岡県の法務局だけでなく、東京都の法務局に相談することもできるわけです。

もっとも、この場合、実際に承認申請を行う際は、やはり福岡県の法務局に申請する必要があります。

制度を利用するか迷っている、制度についてもっと知りたい、という程度の相談であれば、東京都の法務局でも十分かもしれません。
しかし、制度について調べた上で、実際に承認申請を検討する段階に入っているのであれば、承認申請先である福岡県の法務局に相談するのが良いかと思われます。

帰属が認められない土地

国庫への帰属が認められない土地の要件については、以下のとおりです。
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下「法」という。)において定められていますので、確認しておきましょう。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

1 申請をすることができないケース(却下事由)
ア 建物がある土地
イ 担保権や使用収益権が設定されている土地
ウ 他人の利用が予定されている土地
エ 土壌汚染されている土地
オ 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

2 承認を受けることができないケース(不承認事由)
ア 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
イ 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
ウ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
エ 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
オ その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

また、法務省のHPに詳細な具体例が掲載されていますので、こちらもチェックしておきましょう。

法務省:相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件 (moj.go.jp)

審査手数料

審査手数料の金額は、土地一筆あたり14,000円となっています。

後述する「負担金」とは別のものですので、ご注意ください。

申請方法・添付書類 

以下のいずれかの方法で、承認申請書を提出します。

① 法務局の窓口に提出

② 法務局に郵送で提出

添付書類は、以下のとおりです。

【必ず添付する書類】
ア 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
イ 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
ウ 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
エ 申請者の印鑑証明書(市区町村作成)

【遺贈によって土地を取得した場合に添付する書面】
オ 相続人が遺贈を受けたことを証する書面
 ※具体的には、以下のような書類です。
 ・遺言書
 ・亡くなった方の戸籍全部事項証明書等(出生~死亡)
 ・亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票
 ・相続人の戸籍一部事項証明書
 ・相続人の住民票又は戸籍の附票
 ・相続人全員の印鑑証明書

【申請者と所有権登記名義人が異なる場合に添付する書面】
カ 土地の所有権登記名義人(or表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面
 ※具体的には、以下のような書類です。
 ・亡くなった方の戸籍全部事項証明書等(出生~死亡)
 ・亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票
 ・相続人の戸籍一部事項証明書
 ・相続人の住民票又は戸籍の附票
 ・遺産分割協議書

【任意で添付する書面】
○固定資産評価証明書
○承認申請土地の境界等に関する資料

負担金

国が管理をすることとなった土地に関して、元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて、国に生ずる管理費用の一部を負担する必要があります。
そのため、土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた人は、承認された土地につき、所定の計算式により算定された額(※)の負担金を納付しなければなりません。

※ 国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額

詳細な計算方法については、法務省のHPを参照してください。

法務省:相続土地国庫帰属制度の負担金 (moj.go.jp)

注意点

ここまで見てきたように、本制度を利用するためには、いくつかの要件をクリアする必要があります。特に、次の二点が、制度利用を検討する上で、ハードルを高くしているといえるでしょう。
①帰属が認められる土地は限定的
②負担金が高額になり得る

本制度を有効に活用するためには、今後の制度運用の動向に注視する必要がありそうです。