そもそも、司法書士ってナニ?
「司法」と付くからには、なんとなく法律の仕事をする人っぽいけど……。
法律といえば弁護士なんじゃないの?
行政書士なら知ってるけど、どこが違うの??
そんなふうに感じている方、意外と多いのではないでしょうか。
ここでは、司法書士という職業について、できるだけ分かりやすく説明してみようと思います。
司法書士とは?
昔から、名は体を表すといいます。
弁護士は弁護する人、弁護の士。会計士なら会計をする人、会計の士。
つまり、司法書士とは、司法書の士なのです。
……と言いたいところですが、これだけではさすがに不親切ですよね。
せっかく「司法」を名乗っているのですから、法律を使って説明してみましょう。
司法書士法という法律には、次のように書かれています。
(司法書士の使命)
第一条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
というわけで、司法書士とは、法律事務の専門家ということになります。
ただし、「その業務とする……法律事務」とありますので、全ての法律事務ではないことには注意が必要です。
司法書士の業務とは?
では、業務とする法律事務(司法書士のお仕事)とは、具体的にどのようなことなのでしょうか。
先ほどの条文をよく読んでみると、「登記、供託、訴訟その他の法律事務」と書かれていることが分かります。
どうやら、このあたりのことが業務とする法律事務に該当しそうです。
もう少し詳しく見てみましょう。
法務省のHPには、司法書士の業務について、次のように書かれています(一部を抜粋)。
司法書士の業務
法務省:司法書士の業務 (moj.go.jp)
(1) 登記又は供託に関する手続について代理すること。
(2) 裁判所,検察庁又は(地方)法務局に提出する書類を作成すること。
(3) (地方)法務局長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
(4) 簡裁訴訟代理等関係業務を行うこと。
これらのことが、司法書士が業務とする法律事務、すなわち司法書士のお仕事であるといえますね。
その中でも、ひとまず(2)に注目してください。
裁判所(中略)に提出する書類を作成すること、とあります。
裁判所といえば、言わずと知れたバリバリの司法どころです。
司法オブ司法といっても過言ではありません。
そんな裁判所に提出する書類といったら、どんなものが思い浮かぶでしょうか。
代表的なものといえば、訴状あたりだと思います。
裁判(訴訟)を起こそうと考えた時に、裁判所に提出するものです。
司法に関する書類を作る専門家、すなわち、司法書士ということになります。
やっぱり、名は体を表していましたね。
具体的なお仕事 ~登記手続~
ここで、司法書士のお仕事について振り返ってみましょう。
(司法書士の使命)
第一条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
司法書士とは、その業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家です。
つまり、司法書士が業務とする法律事務は、たくさんある「法律事務」のうちの一部に過ぎません。
一方で、法律といえば弁護士のイメージがあるかと思います。
実際、弁護士は、司法書士と違って法律事務全般を扱うことができるのです。
それなら、法律に関することは全て弁護士に相談すればいいじゃないか。
……と、思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、「法律事務」とは、とても守備範囲の広い概念です。
実は、司法書士の業務だけでなく、たとえば税理士の業務なども「法律事務」に含まれています。
なぜなら、税金に関するルールを定めているのも、法律だからです。
消費税のことなら消費税法、相続税のことなら相続税法、所得税のことなら所得税法……などなど。
でも、実際はどうでしょうか。
みなさんは、税金のことを弁護士に相談しようと思いますか?
「確定申告について誰かに相談したい。そうだ、弁護士の事務所へ行こう!」とはならないですよね。
税金のことなら税理士に、というのが一般的な発想なんじゃないかと思います。
司法書士にも同じことがいえます。
繰り返しとなりますが、司法書士は、「登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家」です。
数ある法律事務の中でも、特に「登記、供託、訴訟その他」を専門としているのが司法書士なのです。
これらの事務に限っていえば、弁護士よりも司法書士のほうが、それぞれの分野に特化した能力をもっているといえます(ただし、訴訟については限定的です)。
筆者が考える主な司法書士の強みは、次のとおりです。
- 登記手続
- 裁判書類作成
- 簡易裁判所代理
- 成年後見・家族信託など
これらの中でも、特に代表的なお仕事といえるのが、「登記手続」です。
以下、詳しく触れていきたいと思います。
登記とは?
突然ですが、みなさんのお住まいはどちらになりますか?
ちなみに筆者は、生まれも育ちも埼玉県、現住所まで埼玉県。生粋の埼玉県民です。
仮に、みなさんのお住まいが埼玉県さいたま市であったとしましょう。
みなさんは、ご自分がさいたま市民であることを、どのようにして証明するでしょうか。
運転免許を取得されている方であれば、運転免許証を見せるのが早いですね。
そうでなければ、市役所に行って住民票(の写し)をもらってくるのが良さそうです。
みなさんが住民登録をしっかりと済ませていれば、住民票にはみなさんの住所がバッチリ記載されているはずですから、なんの問題もありませんね。
では、みなさんのご自宅についてはどうでしょうか。
みなさんが毎日寝泊まりしている、その建物のことです。
ここでは、仮に、一戸建ての住宅にお住まいであったとしましょう。
その住宅は、何階建てですか? 木造ですか、コンクリート造ですか? 広さはどのくらいですか?
そして何より、その住宅を所有しているのは、どなたでしょうか。
みなさん自身か、親族の方か、あるいは赤の他人か……。
このような質問に、みなさんがスラスラと答えられたとしましょう。
「本当にそうなのか? テキトーに言っているだけじゃないのか?」と言われたら、今度はどうしますか?
先ほどの住民票のように、役所に行ってサッと書類をもらうことができれば、それを見せるだけで済みますよね。
そう考えると、住民票って便利です。
住宅についても、住民票のような便利な書類があればいいと思いませんか?
実は、あるんです。
下の画像が見本ですので、まずはご覧ください。
建物の種類や構造、所有者などの情報が記載されていますね。
このような情報を記録することを、登記といいます。
もう少しきちんと定義してみますと、
登記とは、ある財産や権利などに関する一定の事項を、帳簿に記録することをいいます。
そして、記録されたその情報(登記記録)は、広く一般に公開されています。
具体的には、法務局というお役所に行って、先ほどの画像のような書類を交付してもらうことで、誰でも登記記録を見ることができます。
住民票とは対照的ですね。あちらは、基本的に、赤の他人が見ることはできませんから。
そして、このような書類のことを、登記事項証明書(登記簿謄本)といいます。
一戸建ての住宅というのは建物、つまり不動産ですから、不動産登記事項証明書、ということもできます。
登記の種類とは?
上で述べたように、建物は不動産です。したがって、建物に関する登記は不動産登記といいます。
そして、不動産登記があるということは、他の登記もあるということです。
いろいろ種類はありますが、主な登記といえば、
- 不動産登記
- 商業・法人登記
- 成年後見登記
- 債権譲渡登記
このあたりでしょうか。
なお、法務省が公表しているデータによれば、令和3年度の登記件数は、1,256万3,060件でした。
そして、このうち不動産登記の件数が1,074万827件と、全体の約85%を占めています。
筆者としても、みなさんにとって最も身近な登記は不動産登記だと考えています。
ですので、ここでは不動産登記について、もう少し詳しく説明していきたいと思います。
不動産登記とは?
不動産登記とは、不動産に関する一定の事項を、帳簿に記録することをいいます。
帳簿というのは、法務局が管理しているデータベースのことです。
登記の帳簿なので、登記簿と呼ばれています。
そして、不動産に関する一定の事項とは、次のようなことです。
・どこにあるのか?
・どんな不動産か?
・誰のものなのか?
・どんな権利がついているのか?
つまり、登記簿の登記事項(データベースに載っている情報)を見ることで、不動産のプロフィールが一目で分かるのです。
登記簿の読み方
それでは、先ほどの見本をもとに、登記を読んでいきましょう。
表題部
登記簿のうち、一番目の大枠には表題部の登記事項が記録されています。
まずは、上のほうにある(主である建物の表示)を見てみましょう。
所在と家屋番号により、どこの土地の上に建っているのか、どの建物なのかを特定することができます。
その下に続くのが、どのような建物なのかを表す部分です。
①種類 ……居宅
居宅ということは、この建物は人が住むための家だということですね。
ほかに車庫や店舗など、さまざまな種類があります。
②構造 ……木造かわらぶき2階建
木材を組んで作られた家だということですね。屋根には瓦が乗っていて、2階建てのようです。
ほかに鉄筋コンクリート造とか、スレートぶきの屋根などがあります。
家の材料を知ることができるわけですね。
③床面積 ……1階 80㎡、2階 70㎡
床面積というのは、床の面積ですから、要するに家の広さです。
「原因及びその日付[登記の日付]」ですが、
令和1年5月1日新築とありますから、この日に建物が完成したことが分かります。
その下の令和1年5月7日というのは、建物が完成したので登記簿に記録してください、ということを法務局に申請した日になります。
つまり、建物を建てただけで自動的に登記簿が作られるわけではないのです。
いつ、どこで、どんな建物が建てられたのかを全て把握するなんて、お役所の人にもできませんからね。
建てたらちゃんと自分で報告してください、ということです。
権利部(甲区)
登記簿の二番目の大枠には、権利部(甲区)の登記事項が記録されています。
(所有権に関する事項)とあるように、ここを見ることで、その不動産の所有者が誰なのかを確認することができます。
まずは、「権利者その他の事項」の欄を見てください。
この建物の場合、「法務五郎」という人が所有者として記録されています。
「特別区南都町一丁目5番5号」というのは、法務五郎さんの住所です。
この法務五郎さんのように、ある権利の持ち主として登記されている人のことを、登記名義人と呼ぶことがあります。
「受付年月日・受付番号」というのは、登記申請を行った日の日付と、法務局で申請を受け付けた時の番号のことです。
つまり、この建物を建てた法務五郎さんから、「私がこの建物を建てたので、所有者として登記簿に登録してください」と法務局に申請された日が、令和1年5月7日だったということです。
受付番号は、日付と組み合わせることで、権利を特定するのに役立つものです。
そして、この事例の場合、法務五郎さんは、この建物について初めて所有権を登録した人ですよね。
このように、初めて所有権を登録する場合には、「所有権保存」という言葉を使います。
よって、「登記の目的」が「所有権保存」となっています。
権利部(乙区)
こちらには、(所有権以外の権利に関する事項)が記載されています。
先ほどの考え方を踏まえると、令和1年5月7日に「抵当権設定」の登記が申請された、ということは分かりますよね。
さらに「権利者その他の事項」を読むことで、この抵当権という権利の詳細な情報が分かります。
○原因 ……令和1年5月7日金銭消費貸借同日設定
金銭消費貸借というのは、要するにお金を貸し借りすることです。
○債権額 ……金4,000万円
4,000万円を貸し借りしたということです。
○利息 ……年2・60%(年365日日割計算)
ただお金を貸すだけでは、貸す側にメリットがありません。
そこで、利息をつけて返してもらおうというわけです。
○損害金 ……年14・5%(年365日日割計算)
返済期日までにお金が返ってこないと、貸したほうは困ってしまいます。
そこで、支払いが遅れた場合には、より多くのお金を支払ってもらうということですね。
○債務者 ……特別区南都町一丁目5番5号 法務五郎
お金を借りたのは法務五郎さんだということです。
「所有者」のほうの法務五郎さんと住所が同じで、名前も同じですから、この建物の所有者である法務五郎さんがお金を借りた、ということが分かります。
○抵当権者 ……特別区北都町三丁目3番3号 株式会社南北銀行
抵当権という権利の持ち主です。そして、この場合、法務五郎さんにお金を貸した人でもあります。
○共同担保 ……目録(あ)第2340号
次項で解説します。
つまり、こういうことです。
南北銀行さんは、法務五郎さんに4,000万円を貸しました。
もしも法務五郎さんがお金を返してくれないと、南北銀行さんは困ります。
裁判を起こして返済を求めることもできますが、法務五郎さんが一文無しだった場合、お金をとることはできません。
そこで、この建物を担保に入れることにしました。
法務五郎さんがお金を返せなくなったら、この建物を誰かに売却し、その売却代金を、4,000万円の返済にあてるのです。
そして、このような売却をしてくださいと主張したり、売却代金を返済にあてたりすることができる権利が、抵当権なのです。
こうすることで、南北銀行さんは安心してお金を貸すことができます。
法務五郎さんとしても、きちんとお金を返済しさえすれば、自宅を売らずに済みますね。
ところで、法務五郎さんは、なぜ4,000万円もの大金を借りたのでしょうか?
所有権保存登記を申請したのが令和1年5月7日、お金を借りたのも令和1年5月7日……。
これらを踏まえると、4,000万円は住宅を建築するために借りたもの、すなわち住宅ローンなのだろうという推測ができますね。
共同担保目録
共同担保目録とは、抵当権が設定されている不動産のリストです。
○「記号及び番号」 ……(あ)第2340号
先ほどの抵当権のほうにも、同じ記号と番号が記録されていましたね。
つまり、このリストを見れば、先ほどの抵当権が設定されている不動産が分かるのです。
○担保の目的である権利の表示
2番のほうには、ここまで見てきた建物が記載されています。
一方、1番のほうには、特別区南都町一丁目101番の土地とあります。
この土地は、2番の建物が建っている土地になります。
登記申請手続の代理
さて、ここまで見てきたのは、登記事項証明書(登記簿謄本)の中身でした。
登記事項証明書は法務局に交付してもらうことができますが、法務局が勝手に登記をしてくれるわけではありません。
上でも少し触れましたが、所有権を手に入れたからといって「所有権保存」の登記が勝手に行われるわけではありませんし、住宅ローンを組んだからといって、「抵当権設定」の登記が勝手に行われることもありません。
登記は、基本的に、法務局に対して「登記申請」をすることで、はじめて行われるものです。
法務局は、その登記申請の内容が妥当であれば、それを登記記録に反映します。
そして、その登記申請に関する手続を代理するのが、司法書士の主な仕事というわけです。
具体的には、「登記申請書」や、その申請書に添付する「添付書類」を作成・収集し、法務局に提出することになります。