はじめに
相続手続の中でも、特に大きなポイントとなるのが「遺産分割協議」です。
相続人が複数いる場合には、被相続人(亡くなった方)の遺産について、「誰が」「どれを」相続するのかを協議する必要があります。
そして、その結果を文書にまとめたもの(「遺産分割協議書」)を、相続登記などの相続手続において活用していくことになります。
この協議や協議書の内容が不十分なものだと、相続手続が中断してしまうことがあります。
また、一旦は手続が済んだとしても、後になってトラブルが生じることもあります。
そのため、相続手続の中でも特に重要なステップだといえるのです。
以下、詳しく解説していきます。
少しでも参考にしていただければ幸いです。
なお、相続手続の全体像を確認したい場合には、こちらの記事をご参照ください。
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、相続が発生した際に、相続人全員が集まり、被相続人の遺産(相続財産)をどのように分けるかを話し合う手続です。
民法では、相続人が複数いる場合、遺産は「共有」状態となるため、各人の取り分を決めるには合意が不可欠です。
よくある誤解ですが、遺産分割の内容は、法定相続分どおりである必要はありません。
たとえば、配偶者と子どもの計2名が相続人となる場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつとなります。
このとき、この2名が合意さえできれば、全財産を子ども一人に相続させることも可能なのです。
なお、被相続人が遺言書を遺していた場合には、基本的には遺言の内容に従って遺産を分けることになります。
もっとも、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる内容での遺産分割も可能です。
また、相続人が一人しかいない場合には、協議する相手が存在しません。
その結果、遺産分割協議を行う必要はないことになります。
当然、相続手続において遺産分割協議書を提出する機会もありません。
協議までの流れ
遺産分割協議を始めるには、まず以下の2つの準備が重要です。
これらの作業を終えることにより、「誰が」「何を」相続するのかを話し合う準備ができます。
相続人の確定(戸籍の調査)
被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を収集し、法律上の相続人を確定させます。
想定外の相続人(たとえば、前妻との間の子ども)がいないかを、慎重に確認する必要があります。
前述したように、遺産分割協議は「相続人全員」で行う必要があります。
たとえ存在を知らなかったとしても、協議に参加していない相続人がいる場合、その協議は無効となります。
そして、遺産分割協議が成立していなければ、原則として相続登記などの手続を行うことはできません。
よって、最初に相続人を調査・確定しておくことが極めて重要となるのです。
なお、相続人の調査・確定については、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
相続財産の調査・確定
不動産・預貯金・株式・借金・未払金など、プラスもマイナスも含めた財産の内容を把握します。
この時点で、不明な財産があると後々のトラブルにつながります。
たとえば、長男・二男・三男の3名が相続人である場合に、「長男が1000万円を相続する」という協議が成立した場合を想定しましょう。
長男は、3000万円の預貯金のみが遺産だと認識しており、3分の1をもらえるなら公平だと考えていたとします。
しかし、協議成立後になって、実は預貯金のほかに、7000万円相当の不動産も遺産に含まれていたことが発覚しました。
そうすると、長男の取り分は全体の10分の1に過ぎず、とても公平とはいえない結果になってしまいます。
初めから預貯金と不動産が遺産になると分かっていれば、長男は、上記のような遺産分割協議には合意しなかったはずです。
このように、遺産分割協議の成立前に遺産(相続財産)を確認しておくことは、相続人の調査と同様に、極めて重要なポイントとなります。
なお、相続財産の調査・確認については、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
遺産分割協議の方法
遺産分割の方法は、大きく次の4つに分けることができます。
相続人の希望に沿う分割方法を選択することになります。
(1)現物分割
遺産そのものを現物で取得する方法
(例)自宅は長男、預貯金は長女

(2)共有分割
遺産そのものをそれぞれ共有で取得する方法
(例)自宅の持分を長男と長女で2分の1ずつ

(3)換価分割
遺産を換価してから取得する方法
(例)自宅を売却し、その代金を長男と長女で分ける

(4)代償分割
遺産を取得する相続人が、遺産を取得していない相続人に金銭その他の財産を支払うことで取得分を調整する方法
(例)時価1億円の自宅を長男が相続し、長男から長女へ1億円を支払う

遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成して協議結果を書面に残します。
遺産分割協議は口頭でも成立しますが、相続登記をはじめとした相続手続を進めるためには、関係機関に遺産分割協議書を提出する必要があります。
そのため、事実上、遺産分割協議書の作成は必須と考えてよいでしょう。
以下に、遺産分割協議書のサンプルを掲載します。

遺産分割協議書には、相続人全員の実印での押印が必要となります。
そして、押印した実印に対応する相続人全員の印鑑証明書をあわせることで、遺産分割協議の内容を対外的に証明することになるのです。
協議がまとまらない場合
相続人の意見が対立し、話し合いが平行線をたどることも少なくありません。
その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
調停でもまとまらなかった場合には、審判の手続に移行し、裁判所が分割内容を決定することになります。
ただし、調停や審判には時間と費用がかかるため、できる限り協議でまとまることが望ましいです。
なお、司法書士は、調停や審判の申立書を作成することはできますが、相続人の代理人となってこれらの手続を代行することはできません。
また、調停や審判の手続に限らず、紛争状態となった遺産分割協議について、相続人間の調整やとりまとめを行うこともできません。
このような場合には、専門家である弁護士に事務を引き継ぐことになります。
司法書士に依頼するメリット
相続手続は、相続登記を最終目的として始まるケースが多いといえます。
そして、相続登記に必要となる遺産分割協議書の作成に関しては、司法書士が唯一の専門家です。
遺産分割協議書の作成時に、不動産に関する記載事項に漏れがあると、相続登記にも漏れが生じてしまいます。
その結果、遺産分割協議からやり直すことになってしまうことにもなりかねません。
そうこうしているうちに、二次相続や三次相続が発生したり、相続人の認知機能が低下したりするなど、あらためて相続人全員の合意を得ることが困難になってしまう可能性もあります。
そのようなリスクを避けるためには、法律的・専門的な知識を有する司法書士に相談し、相続人・相続財産の調査から遺産分割協議書の作成、相続登記までを、迅速かつ正確に進めることが重要となるでしょう。
まとめ
遺産分割協議書の作成は、相続手続の中でも特に重要で、専門家のサポートを受けることが望ましい部分です。
当事務所では、遺産分割協議書の作成を含めた相続手続全体を、一貫してサポートしています。
川越市周辺で司法書士をお探しの場合には、ぜひ当事務所へご相談ください。