はじめに
相続手続を進める上で、最初に行うべきステップが「相続人の調査・確定」です。
誰が相続人になるのかを正確に把握しないまま、遺産分割協議や相続登記などを進めてしまうと、後にトラブルへと発展するリスクがあります。
この記事では、相続人の調査・確定がなぜ重要なのか、どのように進めるのか、注意すべきポイントや必要書類などを、司法書士の視点から解説します。
なお、「相続財産の調査・確認」についても、並行して進めておくことをお勧めします。
詳細につきましては、こちらをご参照ください。
また、相続手続の全体像を確認したい場合には、こちらの記事をご参照ください。
法定相続人の基本知識
相続が開始すると、相続財産(遺産)を誰が相続するのかを確定する必要があります。
民法では、相続人となる人の範囲が厳格に決められています。
たとえば、被相続人(亡くなった方)に配偶者(夫or妻)と子どもがいた場合、その配偶者と子どもが相続人になります。
このように法律で定められた相続人のことを、法定相続人といいます。
被相続人を取り巻く家族構成によって、誰が法定相続人となるかは変わります。
子どもがいれば子ども、子どもがいなければ親、親もいなければ兄弟姉妹。
というように、相続権を取得する順番があるのです。
以下の図で、法定相続人となる人を確認してみましょう。

いかがでしょうか。
まず、配偶者は常に相続人となることが分かるかと思います。
そして、それ以外の相続人については、家族構成によって変わってきます。
〇第一順位:子ども(直系卑属)
子どもがいれば、配偶者とともに相続人になります。子どもが亡くなっていれば、その子(孫)が代襲相続します。
第二順位:父母(直系尊属)
子どもがいない場合、父母が相続人になります。
父母がいない場合は祖父母に順番が回ってきます。
第三順位:兄弟姉妹
第二順位も第三順位もいない場合、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代わりに相続します。これを代襲相続といいます。
ただし、甥・姪も亡くなっている場合には、その子は相続人とはなりません。
順位については以上です。
上の図は、いずれもシンプルな家族構成だといえます。
それでは、次のような場合ではどうなるでしょうか。
〇被相続人に離婚歴があり、前配偶者との子どもがいる
〇被相続人が生前に養子縁組していた
〇被相続人が亡くなったあと、相続人がさらに亡くなった
なんだか、相続関係がややこしくなるような気がしないでしょうか。
こうした事情を踏まえて、「法定相続人」を漏れなく正確に調査することが必要です。
また、相続関係によって、法定相続分も変わってきます。
上図でいうと、配偶者の相続分は第一順位では2分の1でしたが、第二順位では3分の2、第三順位では4分の3となっていることが分かります。
このように、被相続人を取り巻く家族構成によって、相続人となる人や相続財産の取り分が大きく変わることがあります。
このような相続関係を正確に把握しておかなければ、誰と遺産分割協議をするのか、誰がどのくらい遺産をもらう権利があるのかが分からず、トラブルに繋がりかねないのです。
なお、遺産分割協議書の作成については、こちらをご参照ください。
戸籍確認による相続人調査
それでは、どのように相続関係を調査すればよいのでしょうか。
相続人を調べるためには、まず、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を取得します。
戸籍謄本(全部事項証明書)とは、次のようなものです。

この戸籍謄本を確認することで、被相続人の最後の本籍地や出生日、死亡日、配偶者などを確認することができます。
この戸籍を読む限りでは、被相続人である法務太郎さんには、子どもがいないように見えます。
それでは、法務太郎さんには子どもがいないものとして、相続手続を進めてもよいのでしょうか。
戸籍謄本をよく見ると、平成17年に改製されているのが分かります。
そこで、改製前の戸籍(改製原戸籍)を確認してみましょう。

改製原戸籍を確認したところ、法務太郎さんと妻・花子さんの間には、良一さんという子どもがいたことが分かりました。
良一さんは、平成7年7月7日に山野海子さんという方と婚姻し、法務太郎さんの戸籍から除籍されていたようです。
その後、この原戸籍が改製されたため、現在の戸籍謄本には良一さんの名前が出てこなかったのです。
このように、被相続人の相続関係を確認するためには、現在の戸籍謄本を取得するだけでは足りません。
出生から死亡までの全ての戸籍を取得し、他に子どもがいないか、いなければ親が存命でないかなどを確認する必要があるのです。
また、相続人となる人が分かったら、その人の現在の戸籍謄抄本を取得する必要があります。
本来は相続人となる場合でも、その人が亡くなっていることもあり得るためです。
もし、相続人となるはずだった人が亡くなっている場合には、相続関係が変わりますので、さらに戸籍を収集していく必要があります。
このような流れを繰り返し、
・被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍
・相続人の現在の戸籍
を全て収集し、相続関係を確定することになります。
なお、戸籍の読み解きには、専門的な知識が必要な場合があります。
特に古い戸籍の場合、手書きで作成されているため読みづらく、解釈を誤る可能性があります。
戸籍の読み解きに不安がある場合には、司法書士など専門家のチェックを受けることをお勧めします。
相続関係説明図の作成
戸籍の収集により相続関係が確定したら、相続関係説明図を作成します。
これは、その名のとおり、相続関係が一目で分かるように図面化したものです。
以下に、サンプルを掲載します。

このように図面化することで、被相続人・法務太郎さんの相続関係が一目で分かります。
今回の相続人は、妻・花子さんと長男・良一さんだけだったということですね。
なお、相続関係を一つの図にまとめた上で、法務局に提出して登記官の認証を受けることで、法定相続情報一覧図として相続手続に活用することもできます。
この制度については、以下の記事で解説していますので、ご参照ください。
主なトラブル事例
相続関係の調査・確定の段階で、思いもよらぬトラブルが発覚することがあります。
典型的なものとして挙げられるのが、上記「法定相続人の基本知識」で触れた次のような事例です。
〇被相続人に離婚歴があり、前配偶者との子どもがいる
前配偶者との間の子どもも、被相続人にとって子どもであることに変わりはありません。
この場合、その子どもも、被相続人の相続人となります。
被相続人が再婚していて、再婚相手との間に子どもがいれば、そちらの子どもも相続人です。
つまり、いわゆる腹違いの子ども同士が、どちらも相続人となるのです。
このような場合、遺産分割協議の際にトラブルとなることがあります。
〇被相続人が生前に養子縁組していた
養子縁組により、縁組相手も相続権を得ることになります。
たとえば被相続人が、実子とは別に養子を迎え入れていた場合、その実子と養子のどちらも相続人となります。
このような場合にも、遺産分割協議の際にトラブルとなることがあります。
〇被相続人が亡くなったあと、相続人がさらに亡くなった
被相続人が亡くなったあと、その子どもがさらに亡くなった場合、その子どもの相続人が、被相続人の相続権を相続します。
上記の法務太郎さんの例でいえば、①まず太郎さんが亡くなり、②次いで良一さんが亡くなった場合、良一さんが相続するはずだった2分の1の取り分を、良一さんの相続人が相続します。
良一さんは婚姻していますから、良一さんの妻・海子さんが、太郎さんの相続人となります。
さらに良一と海子さんの間に子どもがいれば、その人も太郎さんの相続人となります。
このような場合にも、遺産分割協議の際にトラブルとなることがあります。
いかがでしょうか。
いずれの事例も、想定外の相続人が見つかった場合といえるかと思います。
前述のとおり、正確な相続関係を把握しなければ、誰と遺産分割協議をしてよいかが分かりません。
また、もし遺産分割協議の成立後に想定外の相続人が見つかれば、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
さらに、相続人同士の関係性によっては、協議自体が円滑に進まなくなる可能性もあります。
だからこそ、早期に相続関係を調査・確定することで、その後の手続をどのように進めるのかを、十分に検討しておく必要があるといえます。
なお、遺産分割協議書の作成については、こちらをご参照ください。
司法書士に依頼するメリット
相続人の調査・確定に関する作業を司法書士に依頼することで、次のようなメリットがあります。
〇戸籍の収集・調査を一括で代行
手続に必要となる戸籍を全て収集するためには、遠方の市役所などに請求しなければならない場合もあります。
その際、不要な戸籍を取得してしまったり、必要な戸籍を取得し損ねてしまうこともあります。
専門家である司法書士に依頼することで、そのような手間をかけずに、迅速・確実に戸籍を収集することが可能になります。
〇法定相続人の正確な判定
戸籍を収集することができた場合でも、戸籍を正確に読みとらないと、想定外の相続人を見逃してしまうおそれがあります。
専門家である司法書士でに依頼することで、法定相続人を正確に判定し、安心して遺産分割協議等のステップに進むことができます。
〇相続登記など、一連の相続手続をサポート
苦労して法定相続人を確定することができたとしても、遺産分割協議書の作成や相続登記など、相続手続完了までに必要なステップはまだまだあります。
最初のステップである相続人の調査から司法書士に依頼することで、司法書士側も状況を把握しやすくなり、より迅速・確実に手続を進めることができます。
なお、相続登記については、こちらの記事をご参照ください。
まとめ
相続手続の第一歩である「相続人の調査・確定」は、その後の相続手続全般に影響するものであり、見落としや誤認が許されない重要なプロセスです。
そのために必要な戸籍の収集・読み解きも、一見シンプルに見えて、実は非常に複雑な作業であることが少なくありません。
当事務所では、相続人の調査から相続手続までを一貫してサポートしています。
川越市周辺で司法書士をお探しの場合には、ぜひ当事務所へご相談ください。
相続手続のサポート内容については、こちらをご参照ください。
お困りの際は、こちらよりお気軽にお問い合わせください。