【相続手続の全体像】

はじめに

父母や兄弟姉妹などの親族が亡くなったあと、相続人の方々が直面する「相続手続」。
多くの方にとって、人生でそう何度も経験することではありません。

相続は、法律面でも生活面でも影響が大きいものですが、一方で
「相続放棄は3か月以内」
「相続税申告は10か月以内」
「相続登記は3年以内」
など、期限内に済ませなければならない手続もあります。

そのためには、相続人や相続財産の調査、遺産分割協議など、いくつもの段階を踏まなければなりません。中には、複雑な法律判断が必要となるケースもあります。
気持ちの整理もつかないうちに、これらの手続に取り組むことは、相続人の方々にとって大きな負担となるでしょう。

司法書士などの専門家へ依頼するとしても、どの部分を任せたらよいのか、どの部分を自分でやらなければならないのかなど、知っておくべきことがいくつかあります。

相続手続の全体像を知っておくことで、無用な心配や不安に駆られることも少なくなると考えます。
また、相続の基本を知っておくことで、不要なトラブルを避け、ご家族の大切な財産を円滑に引き継ぐことができるはずです。

この記事では、司法書士の視点から、相続手続の全体像をわかりやすく解説するとともに、特に多くの方が関わるであろう重要テーマについて、それぞれ専門ページへのリンク付きで紹介していきます。

相続手続の流れ

相続手続は、基本的に下図のような流れで進行していきます。

それぞれの項目について、一つずつ解説していきます。

相続人の調査・確定

相続が発生すると、まず誰が法定相続人にあたるのかを明確にする必要があります。
そのために必要となるのが、「戸籍」です。

法定相続人というのは、文字どおり、法律で決められた相続人のことです。
亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍をすべて集め、法定相続人を確定します。

たとえば、婚外子や養子、先に亡くなった方の代襲相続などの見落としがちな関係も、戸籍を読み解くことで確認できます。
調査を怠ると、後日「実は他にも相続人がいた」と発覚し、手続が無効になるリスクもあります。

戸籍収集には、手間と時間がかかることも多く、特に本籍が何度も移動していた場合には、複数の市区町村から取り寄せることになる場合もあります。
また、相続人の一部に外国籍となった者がいることが判明した場合には、その国の制度に応じた対応を検討しなければなりません。

このように、相続人の調査・確定はすべての相続手続の出発点であり、慎重に進めることが重要です。

当事務所では、戸籍収集の段階からお客様をサポートすることができます。
詳しくは、こちらのサービス案内をご覧ください。

法定相続情報一覧図の活用

必要な戸籍を全て揃えたあとは、確定した相続関係を図式化することをお勧めします。
図式化することで、複雑な相続関係も一見して分かりやすくなり、確認漏れなどのリスクも減ります。

特に、法定相続情報一覧図を作成しておけば、後々の相続手続にも活用することができます。

「法定相続情報一覧図」とは、法務局が発行する相続関係の証明書です。
戸籍一式の代わりに各種の相続手続に使えるため、非常に便利です。

主なメリットは、相続登記のほか、金融機関や証券会社などの相続手続に活用できることです。
手続ごとに戸籍を何度も提出しなくて済むことで、複数の手続を同時並行で進めることも可能になります。

法定相続情報一覧図の制度については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

法定相続情報一覧図について

当事務所では、法定相続情報一覧図の作成・取得手続の代行も承っております。
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相続財産の調査・確認

相続人調査と並行して、相続財産(遺産)を調査することも必要です。

遺産の内容が正確にわからなければ、遺産分割も相続登記も進められません。
また、仮にそのような状態で手続を進めてしまうと、後々になって、「こんな財産があったのに分けてもらっていない」「借金があるなんて知らなかった」といったトラブルが発生するおそれもあります。

相続財産は、「プラス財産」と「マイナス財産」の2種類に大別できます。

プラス財産としては、主に不動産、現金・預貯金、株式・投資信託などが挙げられます。
マイナス財産としては、主に借金やローン、滞納している税金や公共料金などが挙げられます。

これらの財産を詳細にリストアップすることで、どれを誰が相続するのか、ということを協議することができます。
もし、プラス財産よりもマイナス財産のほうが多いようであれば、相続するだけ損になると考えて、相続放棄を検討することもあるでしょう。

このように、相続財産の調査・確認は、相続の内容を決定する上で、非常に重要なステップとなります。

遺言書の確認

遺言書が残されている場合、相続手続は基本的にその内容に沿って進められます。
しかし、遺言の方式や内容によって、手続の進め方は異なります。

遺言の代表的な方式は、以下のとおりです。

公正証書遺言
 →そのまま登記や金融機関手続に使えます。

〇自筆証書遺言(法務局保管)
 →そのまま登記や金融機関手続に使えます。

自筆証書遺言(法務局未保管)
 →家庭裁判所での検認が必要です。相続人全員への通知や日程調整が必要になります。

自筆証書遺言の保管制度については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

自筆証書遺言の保管制度

当事務所では、公正証書遺言の作成支援、遺言執行業務、検認手続の代行も行っております。
詳しくはこちらのサービス案内をご覧ください。

遺産分割協議書の作成

相続が発生したとき、遺言書がない場合には、相続人全員で「遺産分割協議」を行う必要があります。これは、誰がどの遺産をどのように相続するかを話し合って決める手続です。

たとえば、「全財産の3分の1を長男、3分の2を長女」というふうに割合で分けることも可能です。
また、「不動産は長男、預貯金は長女」というふうに、相続人ごとに受け取る財産を決めることもできます。

このような協議を相続人全員の参加と同意のもとで行い、「遺産分割協議書」を作成します。
この書面は、不動産登記や金融機関の手続で必要となるため、記載内容には十分注意が必要です。

また、協議は必ずしも一堂に会する必要はなく、書面による合意も可能です。
ただし、一人でも欠けると協議自体が無効となるため、相続人の確認は慎重に行いましょう。

また、意思能力がない相続人がいる場合(例:重度の認知症など)には、そのままで協議が成立しないため、成年後見制度の活用を検討しなければなりません。

トラブルを避けるためには、専門家のサポートを受けて進めることが重要です。
詳しくは、こちらのサービス案内をご覧ください。

不動産の相続登記

亡くなった方(被相続人)名義の不動産がある場合には、相続登記を行います。
具体的には、遺言書や遺産分割協議書の内容に基づき、新たな名義人となる方が法務局に登記を申請します。

そして、2024年4月以降は、原則として不動産を取得した日から3年以内に相続登記を行うものとされています。
一部の例外もありますが、基本的には、なるべく早く相続登記を行うべきです。

また、相続登記をしないまま放置すると、売却や担保設定などの形で不動産を活用しようとしても、実務上、手続が進められません。
さらに、放置している間に別の相続が発生することで、相続関係が複雑になるおそれもあります。

いずれにしても、早めの手続を心がけましょう。

当事務所は、登記の専門家として、相続登記申請を代行することができます。
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預金・株式などの相続手続

亡くなった方(被相続人)が預貯金の口座や株式などの証券口座を保有していた場合、その口座についても相続手続が必要となります。

このような金融資産については、金融機関が相続の事実を把握するとすぐに口座が凍結され、相続人による引き出しや売却ができなくなります。
このため、これらの財産を相続人が引き継ぐためには、金融機関や証券会社を通じて所定の手続を行う必要があります。

手続に必要となる書類は、戸籍謄抄本や遺産分割協議書など、相続登記と共通するものも多いです。
もっとも、金融機関によって手続の流れや必要書類が異なることがあるため、事前の確認が重要です。

株式の相続では、証券会社に対して相続手続を依頼し、株式の移管などを進めます。
評価額の算定方法や税務上の扱いには注意が必要で、税理士など専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

当事務所では、金融機関の相続手続を代行することも可能です。
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相続放棄と相続土地国庫帰属制度

相続が発生した際、必ずしもすべての財産を引き継ぐ必要はありません。
特に、借金や「負動産」などのマイナス財産が多い場合には、相続放棄を検討する方も少なくないのではないでしょうか。

相続放棄とは、相続権自体を放棄するための制度で、家庭裁判所に申述することで成立します。
この申述は、原則として、相続の開始を知ってから3か月以内に行う必要があります。

相続権自体を放棄するということは、相続人ではなくなるということです。
マイナス財産だけでなく、現金などのプラス財産も一切相続できなくなりますので、注意が必要です。

一方、全体としてはプラス財産が多い場合でも、特定の「負動産」だけは放棄したい、というニーズもあります。
そのような場合には、相続土地国庫帰属制度の活用を検討してもよいでしょう。

これは、相続財産のうち「土地だけ」を国に引き取ってもらう制度です。
相続放棄とは異なり、相続は受け入れたうえで、不要な土地のみを手放すことができます
ただし、一定の条件や管理費用の負担があり、すべての土地が対象になるわけではありません。

それぞれの制度にはメリット・デメリットがありますので、状況に応じた選択と、専門家への相談が重要です。

相続土地国庫帰属制度については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

相続土地国庫帰属制度

相続税の申告 ※税理士に相談

相続が発生した場合、一定額を超える財産を受け継いだ相続人には、相続税の申告と納付の義務が発生することがあります。

具体的には、基礎控除額(令和7年現在:3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える相続財産があると、申告の対象となる可能性があります。

申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内とされています。
それまでに財産の調査・確認や遺産分割協議を終え、必要書類を揃えて、税務署に申告する必要があります。

預貯金や不動産、有価証券など多様な財産を正確に評価するためには、専門的な知識が求められます。
もし、相続税申告不要と自己判断したあと、申告が必要だったことが発覚すれば、本来の相続税に加え、税負担が追加される可能性もあります。

このため、相続税の申告が必要かどうかの判断や具体的な税務申告については、税理士などの専門家へのご相談をお勧めします。

なお、司法書士は相続税の計算や申告書の作成を行うことはできません。
相続税申告が必要なケースでは、税理士との連携により、お客様をサポートさせていただきます。

まとめ

相続は、人生でそう何度も経験するものではありません。
そのため、いざ相続手続に直面すると、その煩雑に不安を感じてしまう方もたくさんいらっしゃいます。

より詳しい情報は、各記事にて解説しています。
必要に応じて、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

当事務所では、戸籍収集から相続登記まで、相続手続全般を一括でサポートしています。
また、相続税申告など他士業のサポートが必要になる場合には、それぞれの専門家をご紹介いたします。

お困りの際は、こちらよりお気軽にお問い合わせください。